24歳の電通社員の女性。過労自殺。「行きたくない部署」として評判の部署で働かされていた。電通の罪深さ。

●女性新入社員が過労自殺

「マスコミ関係の仕事であること、職種の異動があり出来ることの幅が広いこと、新しいコンテンツをつくりだしていけること…などを重視して選びました」

 

2014年の春、当時東京大学文学部の4年生だった高橋まつりさんは、広告大手、電通の内定を決め、SNSで知人にこう報告した。

 

そんな希望を語っていたわずか1年半後の15年12月25日金曜日、高橋さんは都内にある電通の女子寮4階の手すりを乗り越えて飛び降り、亡くなった。

 

今年9月、三田労働基準監督署は高橋さんの自殺は長時間の過重労働が原因として労災を認定された。

 

●彼女が働いていた部署

当時、彼女はインターネット広告を担当する部署に所属していた。試用期間後に正社員になると、10月以降1カ月の時間外労働が労基署認定分だけでも約105時間になっていた。この時間は過労死ラインとされる80時間を大きく上回っている。入社一年目の新人が過労死ラインを大きく上回る時間の時間外労働をさせられていたのだ。新人のうちは定時勤務でもきついと感じる。それなのにこの女性は尋常ではない時間、電通に働かされていたのだ。

 

●SNSに激務の記録

ハードワークに耐えられないような子ではなかった、と彼女の知人は強調する。だが電通では、そんな彼女すら死に追いやるほどの激務を新人の彼女にさせていた。高橋さんのツイッターには、長時間労働の実態が垣間見える書き込みがひんぱんに登場する。

 

<休日出勤えらいなぁとか思って出社したけど、うちの部に限っては6割出社してた。そりゃ過労で死にもするわ>(10月12日)

 

<誰もが朝の4時退勤とか徹夜とかしてる中で新入社員が眠いとか疲れたとか言えない雰囲気>(10月15日)

 

<やっぱり何日も寝られないくらいの労働量はおかしすぎる>(10月27日)

 

<土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい>(11月5日)

 

<1日20時間とか会社にいるともはや何のために生きてるのか分からなくなって笑けてくるな>(12月18日)

 

 電通のライバル、博報堂出身で、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんは、広告業界全体の残業が多い体質を指摘する。

 

「広告はサービス業。クライアントの要望を聞き続けないといけなくて、100点を取り続けようとしてしまう。定時に帰る概念がないし、特に新人はサボってはいけないと頑張りすぎてしまう構造がある」

 

その中でもインターネット広告業界は単価が安いうえに作業量がほかの媒体に比べて非常に多い。とりわけ激務になる傾向が強いと別の関係者が指摘する。高橋さんは1年目で自動車火災保険と証券会社のデジタル広告業務を担当し、データの分析とクライアント向けリポートの作成を任されていた。ウェブデータは膨大で分析も難しく、専門的な知識も必要。この関係者は、「1年目でそんな仕事を1人で任されたら追い込まれるに決まっている。事実、ウェブ広告部門に配属されて数年でやめる若手社員は結構いる」と指摘する。

 

●生々しいパワハラ上司

高橋さんは通常業務に加えて、職場の宴会のための出し物作成や映像作成など休日返上で対応を求められていた。ツイッターの書き込みを見ると、高橋さんを追い詰めた職場環境の悪さも見えてくる。

 

<部長「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」(中略)「今の業務量で辛いのはキャパがなさすぎる」>(10月31日)

 

<いくら年功序列だ、役職についてるんだって言ってもさ、常識を外れたこと言ったらだめだよね>(11月3日)

 

 ある若手の電通社員は、高橋さんが配属された部署は「若手社員のなかでも評判の『行きたくない部署』だった」と言う。

 

「関連会社からの出向社員が多く、本社の若手社員が『本社なのに、その学歴なのに、こんなこともできないのか』と叱責(しっせき)されたり、意図的に間違えた指示を出されたりと、パワハラが常態化していたと聞いています」

 

 電通はネット広告分野については今年7月に発足した「電通デジタル」などの子会社に業務を任せることも多く、電通本社に子会社から大量の出向者が来ていたと関係者は証言する。

 

「そんなにつらい職場なら、やめればよかった」というのはたやすい。だが、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授で、職場のメンタルヘルスに詳しい松崎一葉医師はこう言う。

 

「過労による自殺のほとんどは睡眠不足の状態で起こっている。論理的に見えても脳は疲れ、判断能力が低下して、小さなきっかけでもう死ぬしかないと思ってしまうのです」

 

●真面目な女性だった

高橋さんは静岡県の私立高校から東大に入学した。母子家庭に育ち、塾にも通わず時には1日12時間も猛勉強して大学合格を決めた。マスコミに興味があり、「週刊朝日」で配信していたインターネット動画番組のアシスタントを務めたこともあった。叱られてもへこたれない芯の強さがあった。本当に頑張り屋さんだったと知人が評価するような人物だった。

 

意欲に燃える若者は無理をしてしまうリスクが高い。普通の会社には若者のそんな特長を理解している大人がいる。そういう大人が若者の面倒を見る。無理をしないように、燃え尽きないように見守る。ときにアドバイスを言ったり、さりげなくフォローしたりする。そのおかげで若者は無理をして体を壊したり、燃え尽きたりせずにすむ。

 

でも電通にはそういう若者を理解したり、守ったりする大人がいなかった。いたのは彼女に新人いびりが大好きなパワハラ上司だった。

 

そんな上司の下で過酷な労働をさせられていたのだ。精神的にも肉体的にも追い詰められて当然だ。この上司は刑罰を受けてもいいくらい罪深い人間だ。こんなろくでもない上司を雇っている電通という会社も罪深い会社だ。人を過労自殺に追い込むような会社はテロ集団と同じような罪深さがある。若者特有の真面目さをとことんまで利用して、組織の利益を上げるところなどテロ組織の使う方法とそっくりだ。電通はテロリストと同じ思想に染まってしまっていることを自覚すべきだ。そうしないと第二の過労自殺者が出てしまう。そうなるまえに電通には会社にはびこる悪質な思想を改善してほしい。

 

参考:電通の新入社員が過労自殺 「行きたくない部署」として評判だった